10年愛してくれた君へ
私が声を掛けると河西くんはゆっくりと視線を向けてきた。


「あー、鵜崎。いや、俺サッカー部なんだよ。サッカー一筋なんだよ。野球したことねぇんだよ」


「あんたも受験合宿なのに悩みは球技大会の方にあるのね、私も運動嫌いだから乗り気しないのよね」


充希は体を河西くんの方へ向け、『わかるわかる』と大きく頷く。そうだよね、みんながみんな出来るわけじゃないもんね。そもそもやりたいと思っている人が何人いるかっていう問題。


ここで反対派が出ても強行突破の予感しかしないのだけれど。そして確実に雨天決行だ。何故なら、黒山だからだ。


「でもまぁ大丈夫じゃない?ずっと頭使ってるのはよくないから、気晴らしにちょっとみんなで体動かそう的な軽いあれっしょ?」


少しでも元気づけてあげようと声を掛けるが、私のそのセリフは黒山の耳に届いていたみたいで...



「おい鵜崎!お前スポーツを舐めてるな!?いいか?スポーツってのは...---」



お決まりの黒山のスポーツ論語り。昨年から同じことしか繰り返さないからさすがに聞き飽きた。



「お前はどうするんだよ鵜崎、行くのか?」


「うん、一応。私は勉強メインだけどね。私の頭の悪さじゃ進学できるか危ういし」


「そっか。ちゃんとしてんのな、鵜崎って」


ニコッと笑みを浮かべた河西くんに少しだけ胸が高鳴った。


元々好印象だったから、そんな爽やかな笑顔向けられたら...あぁ、素敵。



「お?これはもしや、ラブの予感ですか?」


河西くんに見とれていると、充希がからかうように言ってくる。


「は、は?違うし」


咄嗟に否定する私に、河西くんは『あはは』と笑うだけだった。


うわー、なんだか恥ずかしい!!
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