10年愛してくれた君へ
12.突然の悲劇
翌日、南さんがいなくなり、クラスの男子の活気が落ちている中、何故か同じようにテンションの低かった河西くんが、放課後声を掛けてきた。
「あのさ、ちょっとこのあといい?」
「うん」
河西くんの後をついて行き、たどり着いたのは人気の少ない校舎裏。
いつもと様子の違う彼を不思議に思いながら、口を開くのを待った。
「…単刀直入に言うとさ、今鵜崎の心の中に俺はいる?」
「どういうこと?」
何を言い出すかと思えば。
単刀直入と言うけれど、全然そのような感じはしない。むしろ私にとっては遠回しの言い方に聞こえる。
「…ぶっちゃけ、春兄さんのことが好きだろ?」
「えっ!?」
思いもよらない言葉にただただ驚く。
それと同時に、心拍数も上がった。
「ちょくちょく感じてたんだ。鵜崎の気持ちの変化に」
そう言うと、くるりと半回転し、私に背中を向ける状態になった。
「元々鵜崎の中で春兄さんの存在がデカかったのは知ってたけどさ。最近また違った意味で、どんどん存在がデカくなっていってるだろ?」
河西くんは、私の気持ちの変化に気づいていた?
「…あの、河西くん」
「いいんだ。どうせ最初から勝てる勝負じゃなかったんだし」
夕日が差し、河西くんがシルエットとなって私の目に映る。
同時に影をも映し出し、河西くんの黒いフォルムが二つ現れた。
河西くんは振り向いた。だけど、シルエットで表情まではよく見えない。
「…別れよう、鵜崎」
どんな気持ちで告げているのだろう。
河西くんは今、どんな顔をしているのだろう。
「…今まで、ありがとう。河西くん」
絞り出すように声を発した。
いつも明るくて、懐に入るのが上手くて、人の変化に敏感で、友達思いの河西くん。
初めての彼氏が河西くんで本当に良かった。
「また明日、学校でな!」
私に背を向け歩き出す。
その後ろ姿に再び『ありがとう』と呟いた。