10年愛してくれた君へ
「藍ちゃん、これ…」


差し出してきたのは、小さなショップバッグ。


女子に大人気の雑貨ブランドのものだ。


『どうしてこれを…?』と目で訴える。


「春人の車の中にあったんだって。中を見たら手紙みたいなのが入っていたし、今日藍ちゃんの誕生日でしょ?だから多分、藍ちゃんに贈るつもりだった物だと思うわ」


「春兄が、私に?」


震える手でそれを受け取り、じっと眺めた。


もしかして…いつものように私に欲しい物を聞きづらかったから、こっそり自分で選んでくれたのかな?


…どこまで優しい人なのだろう。




「藍、今日はもう帰りなさい。お母さんたちは今日一晩ここに泊まるわ」


「私も泊まる!」


「一度帰って落ち着きなさい」


確かにこの状態の春兄をずっと見ているのは辛い。


そう思い、春兄からのプレゼントを持って病室を出た。


廊下を歩いていると、春兄パパとすれ違う。


「藍ちゃん…」


「春兄は…きっと大丈夫。誠実に生きてきた人に、一番残酷な結末なんて、神様は用意しないよ」


それだけ言い、春兄パパの横を通り過ぎた。



病院を出て、タクシーを拾う。


プレゼントを大切に抱きながら、車に身を預けた。
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