10年愛してくれた君へ
南と予定を合わせるためにやり取りを続け、お互いの都合のつく日を決めた。


学校に車で迎えに行き、そのまま直接話をつけに向かうという段取りだ。



【春人はいてくれるだけでいいから。
あと、私の話に合わせてくれればいいから!】


前日にそんなメッセージが届いた。


そう簡単にいくものだろうか…と疑問に思う。


暴力的で諦めの悪い男だ。俺が行ったくらいじゃどうにもならない気がする。


だけど、これは交換条件のようなものだ。藍には黙っていてくれと頼んだ以上、引き受けるしかない。




当日、南が学校から出てくる時間に車を停めた。生徒たちがぞくぞくと姿を現わす。この中に藍もいるのだろうか…と余計なことを考えながら南を待った。


すると南がやって来て、助手席に乗せて南をナビに目的地まで向かった。


つい最近まで、ここには藍が座っていたのに。


…ダメだ、今はそんなこと考えている場合ではない。




南の言う通りに道を進むと 町外れの小さな飲食店にたどり着き、南の後ろを歩いて中に入る。


「…シンゴ」


先に座っていたそのシンゴという男は、想像していたような見た目だった。


「…おう、来たか」


男の目線は南からゆっくりとその後ろの俺へと向けられる。


「こいつがお前の好きなやつか」


「そう、付き合ってるの」


彼氏のフリだったっけ。しがない協力関係になる自分に嫌気がさしながらも、少しの辛抱だと言い聞かせる。



「お前さ」


俺の目をじっと見ながら呟く。


「お前さ、南のどこが好きなんだよ」


「…え?」



予想もしていなかった問いかけだ。何なら殴られる覚悟でここへ来たのに。


「好きだから付き合ってんだろ?どこが好きなんだよ」


いや、付き合ってないし…と思いながらも、俺は当時付き合っていた時の気持ちを口にした。



「好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとハッキリしていて、ストイックなところ…ですかね。昔から英語が得意で、英語教師を目指してるんで。そういうところが好きです」


正しくは、好き"だった"。


本当に心から大好きだったとは言えないが、最初は少なからず好意は抱いていた。



「…へー。ま、いいんじゃね?」


「…は?」


拍子抜けしたのは俺だった。


「別れてやるよ南。こいつに幸せにしてもらえよ」


そう言って男は店から出て行った。


そんなにあっさり?いいのか?



「…いいのかよ南、これで」



すると、今まで黙っていた南は俺に笑顔を向ける。


「やっぱり春人を連れて来て正解だったわ!シンゴも春人には勝てないって思ったんでしょうね」


「いや、違うだろ…」



想像していたよりも、意外すぎるくらいにすんなり終わったこの件。


南を地元まで送ってやろうとしたが、『行くところがあるから』と断ってきた。最寄りの駅まで乗せて行き、そこで別れる。



車内で一人、ほっと息をついた。


とりあえず解決したし、これで南はもう関わってくることもなさそうだし、明日は藍の家庭教師だ。


一気に肩の荷がおりた気がして、気分は爽快だった。


< 160 / 176 >

この作品をシェア

pagetop