10年愛してくれた君へ


向かった先は、春兄の病院。


気持ちを落ち着かせ、ゆっくり歩きながら病室へと向かう。


扉を開き、中に入ると春兄ママがいた。



「あれ?藍ちゃん…」


「こんにちは。また来ちゃった。これ、届けたくて…」


昨日と変わらない状態の春兄。


"絶対に目を覚ましますように"と願いを込め、手紙をベッド脇のテーブルに置いた。



「これは?」


「春兄の手紙のお返事を書いたの。絶対に目を覚ますと信じて、書いた」


すると春兄ママは何かを察したのか、優しく微笑んで『ありがとう』と呟いた。


春兄の笑顔は春兄ママ譲りなんだね。



「この封筒のデザイン綺麗ね」


春兄ママの目線が手紙へ移る。


「春兄っぽいかなって思って。この薄いピンクの色味が、春みたいに温かい感じの春兄にぴったりな気がしたの。桜だし、春生まれの春兄にぴったり」


そう言うと、春兄ママは目を開いて少し驚いたような顔を見せた。


「どうしたの?」


「…びっくり。藍ちゃんには言っていなかったはずだから。春人の名前の由来」


由来…そういえば、聞いたことがなかった気がする。


「春のように温かい人になってほしいっていう願いを込めて、そう名前を付けたのよ。由来を知らない藍ちゃんがそう思ってくれるなんて、春人は私たち両親の願っている通りの子に成長してくれたみたいね」


眠っている春兄の手をギュッと握る春兄ママ。


その通りだよ、春兄にぴったりの名前だよ。


春兄ママの手の上から自分の手を重ねて、彼の手を握る。




「春兄…信じてるからね」



そう声を掛けて病室を後にした。
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