10年愛してくれた君へ

「充希ちゃんに知られていたなんて、なんか恥ずかしいな」


照れ臭そうに頭を掻く春兄に、充希から冷たい突っ込みが。


「あれで隠しきれていたとでも?」


それに気づかなかった私って本当に…



「あーなんか藍が落ち込み出した!やめよ!この話もうやめよ!」


充希は注文したオレンジジュースをグイッと飲み干した。


ストローあるのに直でいったわこの人。



「そーいや二人でどっか行かないんすか?初デートは?」


デート…春兄は退院したばかりだし、すぐ連れまわすのはあれかな。


「俺はしたいよ、デート」


そんなことを考えている私をよそに、春兄はストレートに答えた。


思いが通じあってから、春兄は以前と比べて主張するようになった。


もちろん優しいことには変わらないのだけれど。


その変化にも私は喜びを感じていた。



「アツアツですね〜お二人さん」


「アツアツって充希!春兄はそういうキャラじゃないもん」


『そうなの?』と春兄を見る充希。


すると春兄は笑みを浮かべる。


少し"意地悪"が入った笑みだ。



「さ〜?どうかな〜?」


「え、春兄!?」


「はいこれはロールキャベツ系男子確定だわ〜」


ろ、ロールキャベツ!?


充希それって、外見は草食系中身は肉食系っていうあれですか!?


チラッと横目で春兄を見る。


がっしりした体格は草食系には見えないけれど…顔は優しい。


これってもしかして、新しい部類に入るのでは。


…そんなことを考えてしまう私は変態だ。


絶対に春兄には見せられない、私のこんな部分。

いやらしい妄想を繰り広げようとし始めそうな私の脳みそをどうにかしたい。



「で、藍はデートどこ行きたい?」


充希と河西くんがいる前でデートの相談とは。


やっぱり春兄、積極的になってる…



嬉しいけれど、恥ずかしい。


「目の前で繰り広げちゃってくれますね〜春兄さん」


「ってことは、二人きりのときはもっと激しいとか!?」



充希と河西くんの悪ノリが増すこの状況に恥ずかしさでおかしくなりそうで…



「キャッチボール!!!!」


「キャッチボール?」


変なことを言ってしまった。


春兄のきょとんとした顔とその言葉に、改めて口を開いた。



「デート。春兄とキャッチボールしたい」


言っている自分がよく分からなくなった。


高校生と大学生の初デートがキャッチボールって…聞いたことがない。


だいたい春兄は退院したばかりなのに、スポーツデートとか非常識だ。


失敗した…と思い肩を落としている私に優しく声を掛けたのは春兄だった。



「しよ、キャッチボール」


「…え?」


顔を上げると、今までと変わらないあの笑顔。


私の大好きな笑顔だ。



「俺も藍とキャッチボールしたい。だから、しよ?」


「…う、ん」


やっぱり私のやりたいことを優先してくれる春兄。


その優しさは昔から変わらない。



「キャッチボールって…春兄さん体は大丈夫なんですか?」


「あー、激しい運動するわけじゃないし、大丈夫だよ。だから藍、心配するなよ?」


そう言って春兄は私の頭を撫でる。


この仕草が私は大好きだけれど、人前だと当然…



「きゃー!!女子の永遠の憧れ頭ぽんぽん!」


「やりますね〜春兄さん!!」


…ほら、ね?



その後散々冷やかされ、対応に疲れる私であった。


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