10年愛してくれた君へ
その日から、春兄と会話することがなくなった。と言うより、自然と私の方から避けてしまっている。
春兄を見かけても声をかけず、すれ違いそうになったら物陰に隠れる。
私は何をしているのだろう。
そう思うことも多々ある。こんなことをして、一体何の意味がある?と。
でも…私が春兄から卒業できないと、きっと春兄の負担は減らない。甘えてばかりの私がしっかり自立しないと、春兄と顔を合わせられない。
この事を充希に話した。
「あんた…バカ?」
「へ?」
学校でのお昼休み。いつものように充希と教室でお弁当を食べている。
充希はお箸を置き、腕を組みため息をついた。
「結局河西のこと、話したわけだ?」
「…うん」
辺りを見回し、河西くんの姿がないことを確認してから小さく頷いた。
「どこまでバカなのかしらね…」
「な、何で?だって今までずっと悩み事とか相談事とかは春兄に…」
「それを全部一括りにしない方がいいわよ。重要なのはその中身なんだから」
充希はいつもズバズバ直球で言ってくるのに、何故かこのことに関しては遠回しだ。
「それで、距離も置いてると?」
「うん」
「…まぁ、いいんじゃない?確かに藍は春人さんに甘えっぱなしだし。お兄ちゃん離れするいい機会かもね、色んな意味で」
「…?色んな意味って?」
「そのうち分かるわよ、多分ね。一歩踏み出した関係性も考えてみなさいよ?」
充希は何を言っているのだろう。
お兄ちゃん離れにいくつも意味なんてあるの?
それに、"一歩踏み出した関係性"って何のこと?
幼馴染以外の関係性が私たちの間に存在するっていうの?
充希に話せばすっきりすると思っていたけれど、逆に考えることが増えてしまった。