10年愛してくれた君へ
今日は土曜日。明後日からいよいよ合宿が始まる。すっかり忘れていた…なんて言えない。
そう言えば、春兄が集合場所の駅まで車で送ってくれるって言ってたけれど、その話も多分無しになるよね。
だって私、春兄を避けちゃってるし。
春兄から連絡があるわけでもない。
合宿の準備をしようと、必要な物を引っ張り出してみる。
行動表にある持ち物リストと照らし合わせながら、カバンに詰めていく。
「トランプとか必要だよね、あっても困らない」
部屋に私一人というのにぶつぶつ呟きながら、リストにはない余計な物を次々と詰め込んでいく。
すると、ベッドに置いていた携帯が鳴った。
電話だ…
「え、は、春兄?」
思わぬ人物からの連絡。名前を見て一瞬手が止まったが、通話ボタンを押して耳に当てる。
「も、もしもし春兄?」
『藍?元気か?急にごめんな』
久しぶりに聞いた、春兄の声。
やっぱり落ち着くな…
「ううん!どうしたの?」
『明後日から合宿だろ?7時に迎えに行くから。それまでに出れるように準備しといて』
覚えていてくれたんだ…少し気まずくなって、この話はなかったことになると思っていた。
こちらから『送ってよね』なんて言えるはずもなく、もちろん思ってもいなかったけれど。
優しい春兄のことだから、きっとそんな私の気持ちを察して、こうして連絡してきてくれたのかな。
「でも、いいの?」
『…何で?』
「だって私…春兄を怒らせちゃって」
すると電話口から、ふっと笑う春兄の声が聞こえた。
『ちょっと一人で考えたくてさ。勝手でごめんな?藍にも迷惑かけたよ。それに送って行くのは約束してたことだから』
迷惑だなんて思っていない。思っているはずがない。むしろかけてしまったのは私の方だ。だから、謝らせてしまい申し訳ないと思った。