10年愛してくれた君へ
5.初めての彼氏
---迎えた合宿当日。
早起きした私はテキパキと準備を進め、春兄が到着するのを待った。
「藍ー?春人くん来たわよー」
下からお母さんの声が聞こえ、カバンを持って階段を降りる。
玄関には笑顔の春兄が立っていた。
「藍おはよう」
久しぶりに見た、春兄の笑顔だ。
嬉しくなり、私も自然と笑顔になる。
「春兄おはよう!」
「寝坊しなかったんだな、偉いじゃん」
いつもみたいに、私の頭に手をぽんと置く。
気まずかったあの時間が嘘みたいだ。
やっぱり、春兄と私は大丈夫。
この関係性は、永遠のものだ。
「また子供扱い!最近ちゃんと起きてるんだからね!」
「はいはい、じゃあ行くか」
家の前に停めてある春兄の車。
最後に乗ったのは、喧嘩してしまったあの日。
あの時のことが少し頭をよぎったけれど、ブンブン頭を振ってそれを消し去る。
私の大荷物を春兄は後部座席に置いた。
「さぁ、乗って」
「うん!」
お母さんが見送ってくれる中、車は動き出した。
「久しぶりだね、春兄の車」
「そうだな。あ、ペンケースさっそく使ってるよ。就活にも使っててさ、おかげで内定1社貰えたんだ」
思わぬ吉報だった。
その言葉に目を開かせ、自然と言葉が漏れた。
「え!おめでとう!!凄いね春兄!!本当におめでとう!!」
「あははっ。そんなに喜んでくれるんだ」
「当たり前だよ!私嬉しい!!!」
「…っ」
チラッとこちらを見て、すぐ前を向き直した春兄。
「やっぱり…藍の笑顔って落ち着くな」
「え?」
「最近見てなかったからさ。俺のせいだけど」
その言葉をすぐに否定した。
それは違う、春兄のせいなんかじゃない。
「春兄は悪くないから!!私が無神経だったの。私が子供すぎたから…だから、春兄に頼ってもらえるような、大人な女性に頑張ってなるからね!」
「藍…」