10年愛してくれた君へ
今までたくさん甘えさせてもらった分、次は春兄に甘えて欲しい。


そう願いを込めて言ったが、春兄の口から出た言葉は予想外のものだった。



「藍は本当に優しいよな」


え、私が…?


きょとんと春兄を見つめる。


「優しいのは春兄だよ?」


これだけは断言できるもん。


春兄は、どこの誰よりも優しくて、温かい人だ。


その発言にどのような意図があったのか気になったが、すぐに話題を反らされる。



「そうだ、好きな奴とは上手くいってるのか?」


「あっ、えっと…進展はないけど楽しく喋ってるよ!」


「そっか。藍にそんなに想われるなんて、そいつは幸せ者だな」


「あははっ!またまた〜春兄ってば〜」


春兄の肩を軽く叩くと、春兄も笑った。


いつもと同じ、穏やかな時間だ。





車は目的地の近くまで来た。


それらしき生徒たちもチラホラ見受けられる。



「割と早く着いたかもな」


「そだね!春兄ありがとうね!」



駅のロータリーで車が停まる。


春兄は運転席から降りて後部座席のドアを開く。

それに続いて私も助手席から降りた。



「あれ?鵜崎」


「河西くん!おはよう」


声を掛けてきたのは河西くんだった。


私の声に春兄も顔を上げる。


春兄に気づいた河西くんは、『もしかして!』と目をキラキラさせた。


「この人が春兄さん?」


そうか、二人は初対面だった。


「そう!自慢のお兄ちゃん!春兄、私のクラスメイトの…河西くん」


春兄は何かを察したのか、『あぁ』と小さく声を漏らし、河西くんに笑顔を向けた。


「藍がお世話になってるみたいで。藍の…幼馴染の、竹内春人です」


年下の河西くんにも丁寧に挨拶する春兄。
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