10年愛してくれた君へ



1コマ終わり、休憩時間。


やっぱり2時間って辛いな…



「俺英語大っ嫌いなんだよね」


そう声をかけてきたのは河西くん…と、横に工藤くん。


「私は英語というより英語担当の先生が嫌い〜」


『不潔な親父野郎〜』と、机をパンと叩いた。


確かに私もあの先生は苦手だ。


ごもごも何言っているか分からないし、頭はフケだらけだし…まず何言ってるか分からないなんて致命的すぎて。


私たち受験生なんだし、先生のチョイスおかしいって!!



「あの人の2時間は体感的には4時間だよ」


「いや藍、私は8時間に感じたわ」


「初っ端からあれはないな。な?河西」


「もうやっていける気しねーよ…」



疲弊している河西くん。


これでまだ1コマだもんな…



ちょっと春兄に電話してみようかな。


そう思い、携帯を取り出すと、充希が覗き込んできた。


「なになに?春人さん?」


「うん。疲れているときに春兄の声聞くと癒されるんだ〜」


「あ!俺も春兄さんと電話したい!」


河西くんか同じように覗き込む。


「春兄?誰だそれ?」


唯一春兄を知らない工藤くんが首を傾げた。


「私の4つ上の幼馴染なの」


そう言って、春兄に電話をかけた。


繋がるかな…




『…もしもし藍?』


「あ、春兄!今大丈夫?」


『あぁ、ちょうどさっき面接終わって帰るところ』


「そっか!お疲れ様!どうだった?」


『んー、まぁまぁかな?ちょっと意地悪な面接官だったけどな』


「春兄意地悪されたの!?」


そんな!許さないんだけど!!


しかし電話の向こうからは春兄の笑い声が聞こえてきて。


『あははっ!そういう意地悪じゃなくて…んー、藍はまだ知らなくていいと思うよ。就活するようになったら教えてあげる』


「えー、そんなのずっと先じゃん」


『そんなことないぞ?大学入ってから時間が過ぎるの物凄く早く感じるんだ。だからきっとあっという間だよ。それで、藍は?』


「ん?」


『何か用があったんだろ?』


そう言われ、勉強で疲れていたことを思い出した。


春兄と話していると、疲れも吹き飛ぶ。



「さっき1コマ目終わったんだけどさ、もう疲れちゃって…春兄の声、聞きたいなーって思って電話したんだけど、ダメ…だったかな?」


控えめにそう言うと、しばらく春兄の反応はなかった。


あ、やっぱり迷惑だったよね。


そう思って少し落ち込んでいると、春兄はやっと声を発した。



『そんな可愛いこと言うなって。期待するじゃん』


「えっ?」


『あ、いや…そうだよな、受験生の勉強ってハードだもんな。次の科目は?』


時間割表に目をやり、次の科目を確認する。


「えっとね…どうしよう、数学だ」


『藍が大嫌いなやつだな』


「もうどうしよう!春兄助けてよー!」


『ははっ、ちゃんと自分で乗り越えろよ』


その通りです…


だめだめ、甘えたこと言ったら!


誰かに肩をツンツン突かれ、携帯を耳に当てたまま振り向くと、河西くんが口パクで『貸して』と言ってきた。


あ、春兄と喋りたいって言ってたもんね。


それにしても、今朝初めましてだったのに電話で喋りたいなんて、河西くんのコミュ力には脱帽する。



「あ、春兄、河西くんが春兄と喋りたいんだって。電話代わってもいい?」


『あぁ、いいよ』


春兄の声を確認して、河西くんに携帯を渡す。


すると河西くんは嬉しそうにそれを受け取った。



「もしもし春兄さんですか?俺です!河西です!今朝はどうも!」


春兄の声は聞こえないけれど、河西くんのこの感じ、きっと春兄も楽しそうに話してるんだろうなぁ。
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