10年愛してくれた君へ

試合は、想像通りといいますか、でしょうね、と言いますか、地味な結果で終わった。


結局、結果を出せなかった4番の私だが、改めて野球(もといソフト)の難しさを知った。


『どんまい』と軽い感じに声を掛け合う中、一番悔しがっている黒山を冷めた目で見るクラスメイトたち。



「お、お前たち…スポーツってのはな?野球ってのはな?……」



始まった。


さすがに呆れていると、後ろから『鵜崎』と呼ばれる。


振り返ると、そこには河西くん。



「ちょっと…いいか?」


「あ、うん。ごめん充希。ちょっと行ってくるね」


隣にいた充希にそう告げ、河西くんの後に続いた。


「…行ってら〜」





クラスの群れから離れ、人気の少ない場所に連れて来られると、河西くんはゆっくりと私の方に向き直した。



「ふぅ…あのさ、鵜崎」


「う、うん?」



なんか…このシチュエーションって…


まるで…



「急にこんなこと言うと困ると思うんだけどさ、俺…」


「…」


「俺、鵜崎が好きだ」


…え?


いや、まさか…え??


「あの、それは、友達と…して?」


そうだよね?河西くんが私を恋愛対象として見ているはずない。


ずっと私の片思いだもん。



しかし、その考えは河西くんの真剣な眼差しで違うことに気づいた。


「女として、好きだ」


嘘…私、河西くんに告白されているの?




今起きていることに頭がついていけず、しばらく言葉が出なかった。



「…付き合って欲しいんだけど、ダメかな?」


バツが悪そうに笑う河西くんを見て、慌てて口を開いた。


「だだだだダメじゃない!!私も好き!!河西くんが好き!!」


「え、まじで?」


「うん…てか、ずっと好きだった」


恥ずかしくなって目線を下にズラすと、急に視界が真っ暗になった。



「か、河西くん?」


今、抱きしめられてる!?


うわー、やばい、ドキドキが止まらない。



「俺今日ずっと緊張してたんだ、自分から告白するの初めてだから…前から伊藤にも相談乗ってもらってたし」


「え、充希?」



そうか、だからか。


色々知っているような素ぶりを見せていたのは、それが理由だったのか。



「よかったー…本当に」


「河西くん…」



まさかこんな形で気持ちが通じ合うなんて思ってもいなかった。






二人でみんなのところに戻り、真っ先に充希に報告した。


「おぉ、くっ付いたか」


「充希知ってたんだね」


「まぁね。仲介役は大変よ」


何故か浮かない顔をする充希。


でもすぐに『ちゃんと藍を幸せにしろよ』と河西くんに軽い蹴りを入れたのを見て、なんだ、いつもと変わらない、と思った。




私が…河西くんと…



信じられないけれど、現実なんだ。




その後工藤くんにも報告して、工藤くんは『良かったな』と祝福してくれた。


もう一人、報告しなければならない人がいる。




私は次の授業が始まる前に春兄に電話をした。
< 54 / 176 >

この作品をシェア

pagetop