10年愛してくれた君へ





「へ〜、春人さんが家庭教師」


今日のお昼は珍しく学食にて。


たまには豪勢にいっちゃおうという充希からの提案で、お弁当は持って来なかった。


たくさんの生徒でガヤガヤする中、いつもより声のボリュームを上げて喋る。


「うん、春兄頭もいいから」


「甘えっぱなしじゃないの」


「今回ばかりはね?苦しいわけですよ…」


「ふ〜ん…」


何か言いたげだが、特に掘り下げないまま話が続く。


「そう言えば、春人さん就活終えたんでしょ?お疲れ様だね」


「うん、入りたい会社から内定貰ったんだって」


「顔も良し、頭も良し、性格も良しとか、非の打ち所がないわね。カテキョっていつから?」


「今日から、春兄の都合がつく日に来てもらうことになったの」


そう、今日が初日だ。


就活を終えた春兄は、卒業まで卒論とバイト、時々サークルというスケジュールらしく、暇になっているらしい。


「部屋で二人きりとか、何か起きちゃうわね」


「え、春兄と?ないない!昔からお互いの部屋なんて行き来してるし!」


「昔と今の状況なんて変わるもんよ。春人さんに我慢ばかりさせないようにね」


「それは大丈夫。前に言ったもん。我慢しなくていいよって」


そう言うと、充希の手が止まった。


「え、まじ?」


「ん?うん…いつも人を優先しているから、たまには春兄も我儘になってみたら?って」


「あーそう言うことか」


期待していた答えと違ったのか、『なーんだ』とガッカリされた。


何かまずいこと言っちゃったかな?
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