苦手なあの人
背中が軽く揺れて、寺崎さんの手が離れた。
でも、寺崎さんはまだ私の顔をのぞき込んでる。

吐息すらふれる距離。
レンズの向こう、左目下のほくろだってはっきり見える。

「話戻すけど。
加賀さんは俺のこと、嫌い?」

「き、嫌い、ではない、です」

「ならなんで、俺と目、合わせてくれないの?
いまだって」

視界に映る両手を、膝の上でぐっと強く握り直した。

……怖いから。

寺崎さんの得体の知れない目を見てしまったら、捕らえられて逃げられなくなる気がする。

だから。

「ほら。俺の目、見てよ」

寺崎さんの左手が、私の顎にかかる。
人差し指と中指を私の顎下に引っかけると、ゆっくりと上を向かせた。
上がっていく視線に戸惑い、泳がせる。
動きが止まってもなお、視線を彷徨わせ続けた。
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