無理すんなよ。
慌てて帰る準備を始めたけど、なんだか少し名残惜しそうな顔。
良かった。入学早々学校へ行けないことが遥にとって大きな苦痛になると思ってたけど、そんなことなかったみたい。
きっと、この病室で過ごした1日は、日常とは少し違ってある意味充実してたんだろうな。
「じゃあね」「バイバイ」と子どもたちに手を振りながら、遥は笑顔を浮かべている。
私も病室を出る前にニコリとした顔をつくって、看護師さんにお辞儀をする。
たった1日、されど1日。弟がお世話になりました、と感謝の気持ちを込めて。
ドアを閉めた瞬間に「またねー!」という子どもの声が聞こえてきて、クスッと笑いをこぼしてしまった。
病院から出ていく人に向かって「またね」だなんて。本当なら不吉なことなのに。
それでも笑って許せてしまうのは、きっとそれを言ったのが子どもだから。
小さい子なら、何をしたって何を言ったって許される。きっとそれが特権なんだ。
羨ましいわけじゃないけど、少し懐かしんでしまう。まだお父さんがいて、私と遥の関係が歪ではなかったときのことを─────。