無理すんなよ。
「嘘っ、あれって遥生くん!?」
軽快に走り出した遥にみんなの視線が集中している。私は不安しかないけど、神様に祈るように目を瞑った。
お願いします、何事も起こらないでください。また遥の身に何かあったら、と思うと気が気じゃないの。
既に走り出してる以上、止めるわけにはいかない。だから私にできるのは、ただ見てることだけ。
その間にも遥はどんどん2位の人と差をつけている。速い。
こんなに速いなんて知らなかった。というか、遥の走る姿を見たのも久しぶりなのに、一体いつ練習してたんだろう。
「もしかして、アンカー桜庭くんじゃない?」
軽く肩を叩かれて麻莉奈の指さすところに目をやると、そこには本当に桜庭くんがいた。
ハチマキを巻いてるところを見ると、どうやらアンカーみたい。張り切ってるのが遠くにまで伝わる。
……遥、もうちょっとだよ。もう少しで桜庭くんにバトンが渡る。私はすっかり安心しきっていた。
そして、バトンが手渡されて桜庭くんが走り出したその瞬間─────遥の体が、地面に向かって倒れていく。
「遥……っ!」