ヒミツの夜、蛍の光の中で
「……っていうかさぁ。蛍、俺らのこと名前で呼んでよ」
急に不機嫌な声を出したかと思えば、今度は拗ねたような顔をしている奥田先輩。
名前で呼ぶって、つまり……。
「だからー、“ 知陽先輩 ” でいいじゃん?」
そう言って、嬉しそうにイタズラな笑顔を見せてくれた。
そっか。そういえば2年生の先輩も名前で呼んでいた気がする。
それなら俺も……名前、か。
「知陽先輩。怜斗先輩」
無意識のうちに緊張していたのか、少し改まった言い方になってしまった。
でも知陽先輩は、嬉しそうにはにかんでいる。
それとは対照的に、怜斗先輩はなぜだかそっぽを向いている。
「うん、それでよし!」
「意外といいかも」
それぞれが違う反応で返してくれる。やっぱりこのコンビは面白いな。
早くこのふたりの中に入りたい。
このときの俺はまだ知らなかった。ふたりの間にある埋められない溝の正体を。
そして、今にも消えそうな、俺にかけられた “ 魔法 ” のことも─────。