ヒミツの夜、蛍の光の中で

一瞬の隙をついて左側に出た、と思った瞬間。


「読みが甘いんだよ、蛍」



そんなひと言とともに俺の手からボールは取られ、気づいたときには遅かった。


すでにボールは先輩の手の中。


障害がない中での先輩のドリブルは本当にしなやかでかっこいい。



────パシュッ。



その音とともに悟った。俺は負けたのだと。


まだ入部したばかりの1年生が勝てるわけないのに、なぜだか俺は勝ちたいと思っていた。


いつもならこんな出しゃばった行動はしないのに。



休憩時間終了の合図が出て、名残惜しいけれどコート外へ出ていこうとした。


「────蛍」


肩に手を置かれ、振り返る。


そこには、さっきまで俺が対戦していた人の姿があった。
< 28 / 29 >

この作品をシェア

pagetop