きゅんらぶ・あそーと
*** another side

「あんた、後輩のくせに生意気」
クラスメイト達の声が聞こえた。
物陰から覗いてみれば、1人の女子生徒を囲んでいる。

イジメか?
これは生徒会長として見過ごせないな…
そう思って、声をかけようとしたら。

「生徒会役員だからって、亮君の周りウロついて目障りなんだけど」

…俺?

よく見ると、囲まれてるのは、俺の彼女じゃないか。

「こんな安物のださいチョコ、亮君が喜ぶワケないでしょ」
彼女から可愛くラッピングされたチョコを取り上げ、あろうことか、
…踏み潰した。

あいつら!!

今度こそ飛び出そうとしたら。
震える手でそのチョコを拾って、大事そうに抱えている。

泣きそうな目。
言われるがまま。
されるがまま。

何故だろう、無性に腹が立った。
何に対してかは、よく分からないけど。


放課後、先ほどのクラスメイトにチョコを渡された。
「俺がお前の目の前で、仕返しにチョコを踏みつぶすようなヤツじゃなくて良かったな」
いろんな意味で驚いたのか、顔を青くして口をパクパクさせていた。


生徒会室で、アイツを待つ。

少し目を赤く腫らして入って来た。
机の上に置いている豪華なラッピングのチョコを見て、更に泣きそうになってる。

また腹が立った。

「これ、食べちゃうけどいいの?」
俺は口にチョコを挟んで、唇をトントンと叩いた。
それは俺が彼女に送る『キスして』の合図。

彼女が少し目を逸らした。
…何で諦めるんだよ
……頼むから俺を…

そう思っていると、ふと彼女の顔が近付いた。
俺は驚いて…
チョコを飲み込んでしまった。

「大嫌いですぅぅ」
ついに彼女が泣き出した。

カバンの中に、潰されたチョコが見える。
本当に泣き寝入りするんだったら、きっと捨ててきただろう。

渡そうとしてくれたのかな。
きっと彼女のことだから『転んじゃって』とか言って。

我慢ばかりさせてる不甲斐ない自分に一番腹が立った。

「泣き寝入りしてるの、チャラにしてあげるから、俺の中から奪い返して?」
彼女の顔を引き寄せて言う。

…頼むから、泣き止んで。
…頼むから、こんな俺を諦めないで。

…頼むから、こんな俺を許して。
…頼むから、キスして俺の全部を奪っていって。

*** fin
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