エリート外科医の一途な求愛
美奈ちゃんは私と木山先生を交互に見遣りながら、興味津々の様子で訊ねてくる。
私も彼が何を言いたいのかわからず、黙ったまま眉をひそめた。


今日の朝礼でチラッと見かけたとは言え、考えてみたらこの距離でちゃんと顔を見るのは、各務先生の撮影で病棟に行った時以来だったことを思い出す。
あの時、間違ったことは言ってないけど、私は木山先生のご機嫌を相当害したはずだ。


その彼がこんな人前で、私にもなんのことだかわからないことを口走るからには、ちょっと薄ら寒い気分になる。


「木山先生。何を仰りたいのか知りませんけど、勝手なこと言うのはやめてください」


立ち上がりながら胸を張ってそう言うと、彼は肩を竦めてフッと笑った。


「勝手じゃないよ。俺、この目で見たし」


妙に強気に言い返されて、却って私の方に、意味不明な不安が広がっていく。


「見たって、何を……」


眉を寄せ、嫌なリズムで狂い始める胸を押さえながら、私は木山先生を見上げた。
そんな私に彼は軽く背を屈めて、短い言葉を耳打ちする。


「昨日の朝」

「……!」


ギクッとしながら、私は反射的に一歩後ずさった。
お尻がテーブルに当たって、ガタンと音を立てる。


「葉月さん?」


美奈ちゃんが咄嗟に自分のグラスを押さえながら、驚いたように私を見上げた。
< 101 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop