エリート外科医の一途な求愛
大きく見開いた目で木山先生を見つめる私に、彼は口角を上げてニヤッと笑い、それ以上何も言わずに学食の奥に向かっていく。


「あっ……! ちょ、ちょっと待ってください!」


その背を目の動きで追い掛けた後、私は我に返ってそう呼び掛けた。
けれど、木山先生は私を軽く振り返っただけで、どんどん先に進んで行ってしまう。


食事を終えて席を立つ人、空いた席を探してウロウロする人。
学食内にひしめくたくさんの人に紛れて、私は少し後を追っただけでその姿を見失ってしまった。


テーブルとテーブルの間の少し広い通路に出て、ドキドキと嫌な速度で加速する鼓動を抑えるように、私は無意識に胸に手を置いた。
辺りを大きく見渡してみるけど、木山先生はやっぱりどこにも見つからない。


額に嫌な汗が滲むのを感じて、手の甲で拭った。


さっきの言い方。
よくわからないけど、少なくとも彼は、私が昨日の朝、各務先生と一緒にいたことを知ってる。


見られた? 何を?


焦りで胸がドキドキし始めた時、私はハッと息をのんだ。


昨日、あの部屋から転がるように飛び出した時、ぶつかりそうになった人がいた。
まさかあれが……と思うと同時に、ついさっき美奈ちゃんに言われた言葉を思い出した。
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