エリート外科医の一途な求愛
息を切らしながら医局に戻る。
けれど、お昼を少し過ぎた時間の室内には、誰の姿もなかった。


中に足を踏み入れ、各務先生のデスクに向かう。
けれど、彼のデスクはほとんど使った形跡もないくらい片づいていて、綺麗な物だ。


考えてみたら、朝礼の後すぐ一緒に図書館に向かい、彼を置き去りにして先に戻って来てから、私はその姿を見ていなかった。
私が文献持ちを放棄して戻って来てしまったから、一人では持ち切れないと諦めて、図書館で作業を進めているのかもしれない。
そう思い至り、私も今戻ってきたばかりの医局から飛び出した。


朝、各務先生と一緒に歩いたレンガ畳みの通りを走る。
身体にまとわりつく湿気を帯びた熱い空気は、もうすっかり夏の物だ。


ちょっと前から強く効くようになった図書館の冷房が、心地よく感じる。
相変わらず学生の姿の多い図書館を奥に突っ切り、私は三階のフロアに直行した。


一緒に本を探した奥の書架を覗いてみるけれど、そこに各務先生の姿はない。
医学書の置いてある書架を練り歩いて探しても、その姿は見つからない。


辺りをゆっくり歩いてみながら、デスクで試験勉強をする学生の背中にも目を凝らしてみた。


医学生でも白衣を着ている人は多く、後ろ姿だけなら各務先生と見間違うような人もいる。
何度も間違えて声を掛けそうになりながらフロア中探し歩いて、私はようやく探し人の姿を見つけた。
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