エリート外科医の一途な求愛
「き、気味が悪いって……」

「脅されるようなことはなかったのか?」

「脅す?」

「……そこまでセコイ男じゃなかったか」


本を片手で掴みながら、各務先生は眉を寄せたまま溜め息をつく。
そして、チラッと私に横目を流してきた。


「俺よりは紳士的なのかな。俺なら絶対、『黙ってて欲しければデートしろ』って、脅すネタに使っただろうからね」

「……は?」

「いや、デートだけじゃもったいないか」


真顔で何度か頷く各務先生に、私は胡散臭い思いで首を傾げる。
そんな私の反応に、先生は肩を竦めてクスッと笑った。


「まあ、それはどうでもいいとして。わざわざ接触して来たからには、君の出方を窺ってるんだろうな。放っておけばまたそのうち絡んでくるはず。それを待ってもいいけど、気持ち悪いからこっちから仕掛けるか」

「し、仕掛ける?」


あまりにサラッとした言い方だけど、各務先生のその言葉に怯む。
なのに、彼は平然とした様子で、「そう」と短く頷いた。


「わざわざすっきりしない言い方して気を惹いてくるくらいだから、のっかってやれば?ってこと。まあ、普通に考えてあの人が俺より紳士的ってことはないと思っていい。絶対にもっと嫌らしいことを狙ってるはずだから」


何やら不安ばかりを煽るような言い方をして、各務先生はニッコリと私に笑い掛けるのだった。
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