エリート外科医の一途な求愛
「さ、誘ったってわけじゃ……」


引き攣りそうな笑顔を浮かべて一応そこはサラッと否定してみる。
そうして、無駄に店内に視線を走らせてから、心の中で『か~が~み~!!』と呟いて奥歯をギリッと噛み締める。


そんな私に対して、木山先生のテンションは高い。
あっという間にビールジョッキを空にすると、通りがかった店員に朗らかにお代わりをオーダーした。


「仁科さん、もちろんここは俺が支払うから、君もどんどん飲んで。お酒、大丈夫だろ?」


無理矢理の乾杯の後、一口も口を付けていない私のジョッキを見遣って、彼はそう言って勧めてくる。


「はあ……」


ぎこちなく相槌だけ打って、私は木山先生が入ってきたばかりのドア口を窺った。


『仕掛けるか。のっかってやれば?』


『何を見ていようが口止めくらい簡単に出来るだろうから』と、嫌がる私に無理矢理木山先生を誘わせたのは、各務先生だ。


各務先生に素直に従う気にはならず、その日も昨日も何もせずに過ごしたものの、ずっと医局にいる木山先生の舐めるような視線がどうにもうざったい。


結局、各務先生の言う通り、放っておいて出方を待つのに焦れて、私は嫌々ながら木山先生を飲みに誘ってみた。
すると彼は一も二もなくOKの返事をして、今夜このお店を指定してきたのだ。
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