エリート外科医の一途な求愛
私だけが嫌な思いをするのは悔しくて、各務先生にはもちろん皮肉を交えて報告した。
彼は私に時間と場所を聞いてきたから、どこかで見ていて何かあったら助けてくれるんじゃ、と思っていたのに。
各務先生の姿はどこにもない。
木山先生が上機嫌になればなるほど、私の心の中にはそこはかとない焦りが広がっていく。


こんなに喜ばせちゃって、この人が変な気起こしたらどうしろって言うのよ。
考えてみたら、あの状況を木山先生に見られて困るのはお互い様だし、各務先生の方こそ口止めしておきたいはずだ。
もしかして、それを私一人にやらせようとしてるんじゃないでしょうね……!?と、なんだかムカムカしてきた。


イラッとしたら喉が渇いて、私はグイッとジョッキを煽った。
悔しいけれど、夏場のこの時期、仕事帰りのビールは美味しい。


「お。やっとエンジンかかってきたか。いいね~仁科さん。ほら、もっと飲んで」


隣から囃し立てるように煽られて、私はジョッキをカウンターに打ち付けてから一度大きく深呼吸をした。


「そ、その前に。聞きたいことがあるんです」


口元を手の甲で軽く拭いながらそう切り出すと、木山先生はカウンターに頬杖をついて、『ん?』と先を促してきた。
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