エリート外科医の一途な求愛
「それで……」


促されるまま言い淀む私に、木山先生は一気に不機嫌そうな表情に変わって、勢いよくビールのジョッキを傾けた。


「眠ってしまったから、各務先生に何をされたか覚えていない、とでも?」

「な、何って。本当に、そういう変なことは……!」

「眠ってたならわからないじゃないか。それとも何? 君は各務先生に言われて素直に納得できるほど、あの人を信用してるのか?」


木山先生の言葉は、言われてみれば確かにそうだ、と頷いてしまうものだった。
思わず返事に窮する私の顔を、彼はニヤリと笑いながら覗き込んでくる。


「信用なんかしてないんだろう? あの男は君も知ってる通り、女を侍らせるのがお似合いの殿様だからね。だからね。俺は、君の助けになりたいんだよ」

「……助け?」

「泣き寝入りなんかする必要ない。なあ、一緒に各務のヤツを医局から追い出さないか?」


嫌らしくねちっこく聞こえる声に底冷えするような気分になりながら、私は無言で視線を横に流した。


「君のことは大袈裟に全部話すことはない。まあ、『セクハラ』くらいで騒いでくれれば。後は俺がそこに証言を盛ればいい」


ニヤリと歪む木山先生の口元を見ながら、頭にまで鳥肌が立つ気分だった。
さっきの爬虫類に通じる気味の悪さを、私は再び彼に感じていた。
< 112 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop