エリート外科医の一途な求愛
ああ言えばこう言う、とでも揶揄したくなるくらい、木山先生は私には下手に出てくる。
けれど、この人の本性と言うか、本音は疑いようもないくらいはっきり耳にしてしまった後だ。
もう、何を聞いても性根腐ってるとしか思えない。
「私の為みたいな言い方しないでください。それに、それにねっ……」
この人相手に、『医局の上司だ、これ以上言いたい放題になっちゃマズい』と、自分を抑制する気はこれっぽっちもなかった。
そして。
「寝てる間に何かしたって言うなら、したのは私の方! 私が、眠ってる各務先生にキスしたんだから!!」
まるで叫ぶように言い切った瞬間、感じたのはスッキリした清々しさ。
次の瞬間、自分が発したとんでもない一言にハッとして、慌てて両手で口を塞いだ。
けれど、私の怒声を一身に浴びた木山先生は、魂が抜けたように惚けていた。
私も、自分の口から吐き出した完全なる失言に、全身の血が足元に下りていく音を聞いた気がして絶句した。
そして――。
木山先生と私の間の凍り付いた空気を切り裂いたのは、クッと漏れたような小さな笑い声。
それを耳にしてハッと振り返る。
車道を走り抜ける車のクラクションとテールランプで賑わう、大通り。
人が行き交う広い歩道のど真ん中。
口元を手で隠した各務先生が、肩を揺らして愉快そうに笑っていた。
けれど、この人の本性と言うか、本音は疑いようもないくらいはっきり耳にしてしまった後だ。
もう、何を聞いても性根腐ってるとしか思えない。
「私の為みたいな言い方しないでください。それに、それにねっ……」
この人相手に、『医局の上司だ、これ以上言いたい放題になっちゃマズい』と、自分を抑制する気はこれっぽっちもなかった。
そして。
「寝てる間に何かしたって言うなら、したのは私の方! 私が、眠ってる各務先生にキスしたんだから!!」
まるで叫ぶように言い切った瞬間、感じたのはスッキリした清々しさ。
次の瞬間、自分が発したとんでもない一言にハッとして、慌てて両手で口を塞いだ。
けれど、私の怒声を一身に浴びた木山先生は、魂が抜けたように惚けていた。
私も、自分の口から吐き出した完全なる失言に、全身の血が足元に下りていく音を聞いた気がして絶句した。
そして――。
木山先生と私の間の凍り付いた空気を切り裂いたのは、クッと漏れたような小さな笑い声。
それを耳にしてハッと振り返る。
車道を走り抜ける車のクラクションとテールランプで賑わう、大通り。
人が行き交う広い歩道のど真ん中。
口元を手で隠した各務先生が、肩を揺らして愉快そうに笑っていた。