エリート外科医の一途な求愛
『あっちー』と唇の先で呟きながら、それを片手で持って軽く肩に下げる。
わずかに顔を夜空に向け、仰け反る喉元がやけに色っぽくて、私は慌てて目を逸らした。


「そういうとこが嫌われるんじゃないですか。周りからの評価をわかりきってて、自覚しちゃってる辺り」


悔し紛れに素っ気なく呟くと、クッと小さな笑い声が降ってきた。


「周りから評価されなければ、医師でいる意味ないだろ。同業者から嫌われるのもやっかまれるのも、大いに結構。それだけ注目されてることの証明だし、やっかむのは所詮その程度の人間だ」


まるで他人事みたいな言い方でも、言ってる意味はよくわかる。
強気な各務先生の言葉に、私はほんのちょっと苦笑を漏らした。


そんな私に、彼は「でも」と続ける。


「悪かったな。もっと早く店に行ければ良かった。こんな目に遭わせたから、また俺は君に嫌われたかな」


軽く背を屈め斜めの視線を私に向け、探るように訊ねてくる。
私は彼に顔を向けたまま、目線だけ横に逃がした。


「く、来るつもりだったんですか。厄介事を私に押し付けただけかと思ってました」


わずかに唇を尖らせて、精一杯の嫌味を言うと、各務先生は短く笑う。


「俺が君と木山先生を二人きりにして放っておくわけないだろ。そんなオイシイ思いさせたくなかったよ、本当は」
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