エリート外科医の一途な求愛
だから各務先生から目を逸らし、真っすぐカウンターに正面向いて、私はただジョッキを傾けた。
この一杯を飲み終えたら、さっさと帰ろう。
そう思っていたのに。


「仁科さん。俺のこと嫌ってる?」


静かにそう聞かれて、私は一瞬ビクッと手を震わせた。


「君、いつもつれないよね。俺の何がそんなに嫌い?」


そう畳みかけられて、私は無意識にゴクッと唾を飲んだ。


「各務先生が嫌いなわけじゃありません」


それだけは、しっかりと返事をした。
『へえ?』とその先を促されるのを聞きながら、私は勢いよくジョッキを傾けた。


「強いて言えば、顔が嫌いです」


私が続けた言葉に、各務先生はさすがに首を傾げている。
一気にジョッキのビールを喉に流し、ぷはあっとオヤジみたいな息を吐いてから、私はしっかりと各務先生に顔を向けた。


「各務先生が、イケメンだから。それだけです」


反応出来ずに息をのんでいる各務先生を横目に、私は椅子から降りてバッグを肩に掛けた。
そして。


「失礼します」


顔も見せずに一言だけそう言って、お会計を済ませるとバーを後にした。
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