エリート外科医の一途な求愛
「こんな時に、からかわないで」


頬を膨らませて文句を言う私に、各務先生は笑うのを止めて囁いた。


「ごめん。……でもさ」


ほんの一瞬前とは明らかに違うトーンの声が、私の耳をくすぐる。


「オペ中の俺の手なんかじゃなくて、今目の前にいる俺にドキドキしろよ。もっと」

「っ……」


声を返す余裕なんかなかった。


『葉月』と私の名前を何度も呼びながら、耳を柔らかく甘噛みされる。
各務先生の声や仕草、表情に体温、私が感じる全てから確かな情欲が伝わってくる。
彼の情欲は私の中にも浸透していく――。


私はその夜、各務先生の部屋に行った。
ベッドに横たえられた時には、戸惑いなんか当に通り過ぎていた。


ただ、触れる手がとても優しくて。
浴びせられるキスが気持ち良くて。
重なる肌は溶けてしまいそうなほど熱くて。


乞われるまま、『颯斗』と名前で呼んだ。
彼の髪に指を通し、頭を胸に掻き抱いた。


自分でも、よくわからない。
こんなにも溺れて蕩けてるのに、私は酔ってるせいだと思おうとしていた。


神の手でオペをする各務先生を素敵だと思った。
患者さんの命を救うその手に触れられる自分が、幸せだと思った。


彼に抱かれながら、流されているだけだと思い込もうとする自分がわからなくて。
幸せなのに、理性を失うことが出来なかった。



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