エリート外科医の一途な求愛
お昼の休憩が終わり、美奈ちゃんや千佳さんと医局に戻ると、教授室から各務先生が出てくるところだった。
お昼休みで医局に戻ってきていた研修医たちが、一斉に『お疲れ様です!』と声を掛ける。


「お疲れ」


各務先生は白衣に両手を突っ込んで、返事はそれだけで自分のデスクに向かう。


「先生! 先生、午後外来診療ですよね!?」

「私たちもそろそろ病院に戻るので、良かったら一緒に……」

「あの、この間の心移植手術のこと、聞かせてもらえませんか!?」


研修医たちが彼を取り巻きながら、口々に話し掛けている。


「俺、もう少し医局で調べ物あるから。話はまた今度」


各務先生は彼らにチラッと視線を送るだけで、割と呆気なくそう言った。
軽く手を振られた研修医たちも、それ以上追い縋ることは出来ない。


ちょっと前までは、研修医たちに囲まれて雑談に応じていたのに、最近はそういう姿を見かけなくなった。
もちろん研修医たちも素っ気なくなったな、と思ってるだろうけど、狐につままれたように首を傾げるだけ。


各務先生が特に忙しいのはみんなわかってるし、彼の態度もそのせいだと納得してるんだろう。
そこを深読みして、怪訝そうな顔をする人は誰もいない。


とは言え、私はみんなの様子からそおっと目を逸らした。
各務先生があまり雑談しなくなったのが私の為ということは、もちろんわかってる。
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