エリート外科医の一途な求愛
表情こそ柔らかいけど、教授の口から告げられた言葉は、戸惑いしか感じられない物だった。
私はほとんど反射的に一歩前に進み、二人のドクターの間に立って、各務先生を見上げた。
彼も私の視線に気づいて、口元に手を遣ったまま、わずかに私に微笑みかける。


その表情を見ても、彼自身が戸惑っていて、教授の言葉に納得していないのが感じられる。
だから私は、更に一歩前に出て教授の前で一度大きく深呼吸した。


「教授、どうしてですか? 来月の学会は、もう一年も前から各務先生が出席されることになっていて……」


そう言い募る私の肩を、木山先生がポンと叩いた。


「そうなんだけどね、仁科さん。ほら、各務先生忙しくて論文はかどらないでしょ」

「そんなことないです。各務先生、ちゃんと執筆されてます。足りないようなら、私も手伝いますけど」


半分ムキになって言い返したはいいけど、各務先生のスケジュールをこれ以上論文制作に割くのは難しい。
私が手伝ったところで、医療は素人の私じゃ、それほど役には立てない。


「いや、論文の進捗という問題ではなくてね。この間の移植手術のニュースもあって、各務君にはいろいろ仕事のオファーも来てるだろう?」


教授はほんの少し苦笑しながら、私と木山先生のやり取りを遮った。
私も木山先生も、黙って教授に視線を向けその先を促す。
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