エリート外科医の一途な求愛
各務先生の返事を受けて、木山先生はふんと鼻を鳴らした。


「話がついたようなら、私はこれで失礼します。いくら私でも、一ヵ月で論文一本……というのは結構大変ですからね」


そう言い捨てて、なんだかふんぞり返って教授室から出て行った。
その背を見送って、後に残った私たち三人の間で、微妙な溜め息が重なる。


「……各務君。なにも私は、君の論文を発表する場を奪おうとしてるわけじゃないんだよ」


教授がわずかに肩を竦めてそう言った。
それには、各務先生も小さく頷き返す。


「今は、温める時間だ。心移植を極めることが出来れば、君は日本の医療界の未来を背負って立つ医師になる」


教授が続けた言葉に、各務先生はわずかに口角を上げて笑った。


「大袈裟ですよ。でも、お言葉、ありがとうございます」


そう謝辞を述べる各務先生を、私は何故だか落ち着かない気持ちで見つめた。


教授が言った通り、私も彼がそういう立派なドクターになると思っていた。
それを教授が代弁してくれた。
そう思うのに、ソワソワして意味不明な不安を抱える自分がよくわからない。


無意識に俯いた私に、『仁科さん』と教授が呼びかけてくる。


「は、はい」


慌てて返事をしながら、教授に向き直った。
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