エリート外科医の一途な求愛
今、各務先生は、医学会一、世間の注目を浴びているドクターだ。
その上、私たちの関係は、医局内で一番厄介な人に知られている。


今は、木山先生自身が論文制作に追われていて、私たちを窺う余裕はないだろうけど、油断は出来ない。
だから、私の提案はお互いの身を守る為に当然のことだった。


私のそんな説明に耳を傾け、各務先生は一度はあっと大きな溜め息をついた。


『……そうだな。ごめん。それは俺もよくわかってる。木山先生が、わざわざ君に俺の出張に同行しろって言ったことにしても、なんか企んでそうだなって思ってた。のらなくて正解だった』


それを聞いて、私がスマホを持つ手がピクリと震えた。


「だから今回の出張、同行させてくれなかったんですか?」


そう問い掛けると、各務先生がちょっと困ったように口ごもる様子が伝わってくる。


『まあ……ね。あの人の好意に甘えれば、百倍返しで痛い目に遭うし。後になって言い掛かり吹っかけてくるのも、十分考えられるしね。今思うと、変な嫉妬して冷静になれなくて見せ付けたりしたのも、マズかったなって反省してる』


私の耳をくすぐるのは、どこか拗ねたようなそんな言葉。
それを聞きながら、私も木山先生にバカなこと言って怒鳴ったことがあったなあ、なんて地味に反省する。
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