エリート外科医の一途な求愛
その翌週月曜日から、美奈ちゃんが夏季休暇を取っていた。
普段は美奈ちゃんが担当している事務仕事も、私が代わりにこなさなければいけない。
この一週間は私も踏ん張りどころ。
そんな気持ちで、朝礼から気を引き締めていたつもりだった。


散会して、いつも通りみんながわらわらと医局から出て行く。
室内に残って仕事をするのは、論文制作を進める木山先生と私。
そして一番最後まで残っていた各務先生は、肩を落として溜め息をついて、白衣のポケットに手を突っ込み、みんなからちょっと遅れてドア口に向かっていった。


そこを、『各務君、ちょっと』と、教授に呼び止められた。
軽く振り返りながら足を止め返事をすると、各務先生はクルッと方向転換して教授室に足を向ける。
その背中がドアの向こうに消えるのを、私はなんとなく見送った。


わずかに首を傾げた時、横から木山先生の視線を感じ、慌てて姿勢を正す。
真っすぐデスクに向かって、美奈ちゃんから引き継いだ仕事を片づけようとした。


なのに、木山先生は黙ったまま私のデスクの方に向かってくる。
やけにゆっくりした足音が近付いてくるのを感じて、私はキーボードに指を置いたまま肩を強張らせていた。
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