エリート外科医の一途な求愛
もう少ししたら講義を終えたドクターや、学会を控えて研究するドクターも来るけれど、みんな一日中詰めてるわけじゃない。


そんな感じで、ウチの医局は割と静かで、のんびりしている。
私も肩の力を一度抜き、本格的に仕事に取り掛かる前に、トイレに行って身だしなみチェックをした。


身体の汗は引いたけど、朝から少し浮いてしまったメイクを簡単に直す。
湿気で髪が膨張してるのが気になって、手を後ろに回し、ちょっと高い位置で一まとめにした。


この時期まだ医局の冷房は弱いから、正午近くになると直ぐ蒸し暑くなる。
白いシャツの上から着たカーディガンは脱いで、それを腕に掛けて医局に戻った。


「あ、葉月さん。お電話です」


戻った途端、美奈ちゃんが電話を保留しながら、私に呼び掛けてきた。


「テレビ番組制作会社のプロデューサーさん。各務先生の取材の申し込みとか」


デスクに戻るまででそう説明されて、私は返事をしながら卓上ホルダに挿してあるPHSを手に取った。
短い内線着信音の後、美奈ちゃんに軽く合図して電話に応答する。


「お待たせいたしました。心臓外科医局秘書の仁科と申します」
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