エリート外科医の一途な求愛
おかげで、教授の近くで硬い表情を浮かべている各務先生本人が、一番困惑しているように見えたほどだ。


朝礼が終わりみんなが出て行くと、医局は私と美奈ちゃんの二人だけになる。
彼女は大きな溜め息をつくと、ドスッと音を立てて自分の椅子に座った。


「アメリカかあ……なんか、急ですね」


デスクに額をつき、ちょっと落ち込んだ様子を見せてから、彼女は私に横目を向けてきた。


「葉月さん、リスケ対応大変だったでしょ」


そう言われて、私はぎこちなく笑って自分のデスクに着く。
無意識に、デスクの上のカレンダーに目を留めた。


各務先生の医局最終出勤日は、木山先生の学会当日。
その翌日には、出国することになっている。
大学はまだ夏休み中。
後期が始まる前に、先生は行ってしまう。


各務先生のオペのスケジュールは半年先まで埋まっていたけど、どうしても彼じゃなきゃいけないもの以外は、他のドクターに引き受けてもらった。
おかげで、外せないオペの時は日本に一時帰国してもらわなきゃいけないけれど、渡米をだいぶ早めることが出来てしまったのだ。


各務先生が戸惑ってるように見えたのは、彼の予想より出発が早かったせいかもしれない。
さっきの横顔を思い出すだけで、私の胸は締め付けられて苦しくなる。
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