エリート外科医の一途な求愛
「寂しくなるなあ……。あ、ちゃんと各務先生を囲んで送別会しなきゃですね」


ガックリ肩を落とす美奈ちゃんに小さく頷いた時、教授室のドアが開いた。
朝礼の後教授に呼ばれていた木山先生が出て来て、反射的に顔を向けた私は目が合ってしまった。


彼の方もそれに気付いて、ニヤッと笑う。
各務先生の渡米は、私が木山先生に『協力』した結果のことだと思ってるのかもしれない。
私は唇を噛んでそっぽを向いた。


「あ、木山先生! 木山先生も、各務先生の送別会出てくれますよね?」


無邪気に問い掛ける美奈ちゃんに、木山先生も視線を動かした。
そして、なんともご機嫌な様子で『ああ』と返事をしている。


「学会や出張に重ならなければ、もちろん。一緒に仕事出来るの、後一ヵ月もないんだなあ」


言葉だけなら、同僚との別れを悲しんでるように聞こえる。
私はそっぽを向いたまま唇を噛み締めた。


彼は美奈ちゃんと普通の会話をしながら、私の後ろを通り過ぎていく。
だから私も二人の会話を気に留めずに、デスクに向かって仕事を進めようとした。


各務先生のスケジュール変更が無事に済んだ今、次は渡航手続きをしなきゃいけない。
これもまた結構大変な仕事だ。
なのに。


「ねえ。仁科さんの送別会も、各務先生と一緒でいいのか?」


一度私に背を向けた木山先生が足を止めて、私の方を振り返っていた。
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