エリート外科医の一途な求愛
頭の血管が一本くらいキレそうな勢いで、私はそう反論した。
あまりの興奮で、言い切った途端、自分の声に噎せ返る。


「ずる~い! 抜け駆けじゃないですかあ!!」


ゴホッと咳き込む私を、美奈ちゃんが『信じられない』というような目で見ていた。
咎めるような色を彼女の瞳に見つけて、矛先を木山先生にスライドするように、私は目力込めて睨む。


「~~木山先生! 誤解のないようにはっきり言っておきますけど、私は各務先生の恋人じゃないし、もちろん結婚もない。未来永劫日本から離れませんよ。これ以上変なこと言うつもりなら、大学のコンプラ委員に訴えますよ!」


はっきりそう言うと、木山先生は大袈裟な仕草で肩を竦め、『お~怖』と呟いた。


「君がそう言い張るなら、別にそれでいいけどね。俺は君を辞めさせる権利も権限もないし。各務先生がいなくなっても秘書を続けるって言うなら、どうぞご自由に」


どこか芝居がかった口調でそう言うと、木山先生は私たちの前で白衣の裾を翻して踵を返した。
そして、私を肩越しに振り返ると、思い出したように付け加える。


「でも君が残ってると、各務先生、無理矢理医局に帰ってきそうで厄介だしね。いっそ君が一緒に行ってやった方が、各務先生も落ち着いてオペ出来るだろうに」
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