エリート外科医の一途な求愛
どこまでも自己中で勝手な言い草に心底呆れ返る私に、木山先生は背を向け直すとヒラヒラと手を振った。


「まあ、世の中全て思い通りになったら、人生面白くないね」


私と美奈ちゃんの間に強烈な爆弾を投下しておいて、彼は言いたい放題で医局から出て行った。
その背が見えなくなったことにまずホッとした。
けれどすぐに、私をじっとりと睨む美奈ちゃんの視線を感じて、ビシッと背筋を伸ばす。


「……葉月さん」


まるで地の底を這うような、低く冷たい声で呼ばれ、私も笑って誤魔化すことは出来ない。


「えっと……美奈ちゃん?」

「今夜は葉月さん、強制連行します。もちろん、千佳さんも早苗さんも誘って」


抑揚はないのにピシッとした声が続き、私が浮かべた笑顔は凍り付いた。


「み、美奈ちゃん、あの……」

「木山先生が言ったこと、全部根っから間違ってるってわけじゃなさそうですよね。この期に及んで誤魔化そうとかしたら、葉月さん、絶交ですから」

「美奈ちゃん!?」

「仕事、始めます」


いつにないオーラを漂わせる美奈ちゃんに、私もそれ以上の言い訳は出来ない。
拗ねたように真っ赤な顔の美奈ちゃんは取り付く島もなく、私はガックリとこうべを垂れた。
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