エリート外科医の一途な求愛

そう言いながらデスクにバッグを置くと、美奈ちゃんが私の後を追ってすぐ隣に立っていた。


「そうです、早く帰ってください！　って言うか、急がなきゃ間に合いません！」

「うん。……って、何？」


私が何を急いでいるか見透かされてるような気がして、私はちょっと怯みながら美奈ちゃんを見つめた。
彼女は自分の時計をググッと私の前に突き出してくる。そして。


「各務先生！　予定変更して今夜の便で行っちゃうんです！！」

「え？」


ほとんど怒鳴るように突き付けられた言葉に、反射的に聞き返しながら顔が強張るのを感じた。


「今夜？　だって、飛行機は明日で……」

「仕事は片付いたし、一晩日本にいる意味もないからって。飛行機、成田空港午後九時発なんです！　今行けば、まだ間に合うから！！」


すごい勢いで言い募る美奈ちゃんに、腕をがっしりと掴まれた。


「九時……？」


私は呆然として無意識に呟きながら、時計を見つめた。


「各務先生、きっとまた帰ってくるって言ってました。それって、葉月さんの為ですよね！？」


美奈ちゃんは私を下から見上げながら、容赦ない力で私をユサユサと揺さぶってくる。


「あんな寂しそうに笑う先生、初めて見た。ねえ、葉月さん。お願いだから、せめて『好き』って伝えてあげてください！　先生、可哀想。可哀想だからっ！！」


頭がガクガク揺れるくらい強い力に、私の視界もグラグラと定まらない。