エリート外科医の一途な求愛
ゆっくり話す時間なんかない。
美奈ちゃんの言う通り、伝えることが出来るのはその言葉だけだと自覚した途端、私の胸がドクンと大きく震えた。
その時。


「ほらよ、仁科さん。お餞別」


いつの間にか医局に戻ってきたのか、割とすぐ近くから木山先生の声が降ってきた。
私の定まらない視界の中に、突然ヌッと割って入ってきた物に、私は何度も瞬きを繰り返した。


「各務と同じ便の、チケット」


なんだろう、と思うだけで、手に取れずにいた私に溜め息をついて、木山先生が強引に押し付けてきた。


「えっ!?」


手にした物に目を落としてから、私はひっくり返った声を上げた。
大きく見開いた目を、呆然と木山先生に向ける。


「なんかよくわからないけど、待つのが無理なら、一緒に行けよ。それでいいじゃないか」


木山先生はいつもの調子で、私に呆れたような目を向ける。


「そ、そんな簡単に決められることじゃ……」


彼にとってはどこまでも他人事。
そんな気持ちで、私は木山先生から逃げるように目を逸らした。


「簡単だろ。あのな、あんな大泣きするくらい好きなんだろ。それだけで、十分追い掛ける理由になるだろう」


そう言われて、私はハッと顔を上げる。
木山先生は腕組みをして私を見下ろしていた。
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