エリート外科医の一途な求愛
「……昨夜、学会の激励のつもりか、各務のヤツ、わざわざ俺に電話くれたよ。出発変更のことも、その時聞いた。で、最後にご丁寧に、『行きっ放しになるつもりはないんで、医局でやりたい放題は止めてくれ』って、釘刺してきやがった」


忌々しそうにチッと舌打ちする木山先生の言葉を聞きながら、私は手にしたチケットに視線を落とした。


「君たち二人、本当に鬱陶しいから、君もさっさとアメリカ行け。で、帰ってくるな。……少なくとも、俺が無事この医局の教授になるまではな」


どこまでも太々しいことを言いながら、木山先生が私の肩をポンと叩いた。
『学会同行、お疲れ様』と思い出したように労いの言葉を私に向けて、そのまま自分のデスクに向かってしまう。


私と美奈ちゃんはそんな木山先生の背中を眺めて見送った、けれど。


「葉月さん、ほら! 行ってらっしゃい! あ、いやいや、お元気で!」


美奈ちゃんがぱあっと弾けるような笑顔で、私の背中をドンと強く押した。
不意打ちの行動に、私は一歩前に踏み出しながらよろける。


戸惑いながら、美奈ちゃんと木山先生を振り返る。
木山先生は私にヒラヒラと手を振っていた。


それを見て、私は無意識にゴクッと喉を鳴らした。
そして、一度ギュッと目を閉じてから、デスクに置いたバッグを引っ掴む。


「あ、ありがとうございます!!」


今は、その一言が精一杯だった。
勢いよく頭を下げて、私は医局から走り出た。
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