エリート外科医の一途な求愛

「……っく」


彼はもっと前から私を真っすぐ見つめていて、目が合った途端に肩を揺らして笑い始めた。


「え?」


なんで笑われるのか、わからない。
きょとんと目を丸くして問い掛けると、彼は口元を大きな手で隠し、目尻に涙を浮かべ、『悪い』と言いながらも笑い続ける。


「やっと言わせたっていう達成感と、やっと堕ちたかってっていう徒労感と、やったな俺っていう誇らしさと……」

「え?」


くっくっと肩を揺らしながら呟く各務先生の言葉に、私はポカンと口を開けて瞬きをした。
ひとしきり楽しげに笑った後、彼は私に軽く額をぶつけて、俯きながらはあっと大きな息を吐いた。
その姿勢のまま、私に上目遣いの視線を向けてくる。


「君、本当に土壇場にならないとデレてくれないな。まさか、『さらば日本!』って時になって、追っ掛けてくるとは思わなかった」

「……呆れてるんですか」


どこか軽く咎められている気がして、私は目を伏せながら頬を膨らませる。
『いいや』と、愉快そうな声が降ってきた。


「そのままでいろ。高い山は、征服した時の満足感が半端ないから」


そんな不敵なことを呟いて、各務先生は黒子のある方の口角をわずかに上げた。
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