エリート外科医の一途な求愛
アメリカでの生活に慣れるのが精一杯だったこの一ヵ月。
ちょっと買い物に出るだけでも、言葉の壁にぶつかって泣きそうになってた私に反して、颯斗はブラウン博士と、もう何例も難しいオペをこなしていた。
耳に挟んだ話では、患者さんにも大人気らしい。


日本にいた時のままの私じゃ、きっと変なヤキモチを妬いて、颯斗を困らせていたかもしれない。
でも、それじゃあ押し掛けてついてきた意味がない。
それに……。


まだあまり使い慣れないアメリカ式のキッチンに、今日の食材を並べてから、私はふふっと声に出して笑っていた。
新鮮な玉ねぎを手に取りながら、思わず目を細める。


ヤキモチなんか妬いてる余裕がないくらい、私は颯斗に愛されている。
一緒に暮らし始めて、四六時中そばにいると、彼が私に言ったことをまさに証明してもらってるのがよくわかる。


料理を始めながら、キッチンから見渡せる広いリビングを見つめる。
まだたった一ヵ月なのに、ここで彼と一緒に過ごした甘い記憶は、すぐに私の脳裏を駆け巡る。


「はあー。贅沢……」


一人でいても、ぼんやりしてニヤけてしまうほどの幸せ。
手から零れ落ちた玉ねぎが、シンクに落ちてドンと音を立てるのを聞いて、私はハッと我に返った。


「い、いけない、いけない」


自分を戒めるように、両手でパンと頬を叩き、私は颯斗との一ヵ月記念日の為の料理に集中した。
< 229 / 239 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop