エリート外科医の一途な求愛
午後になり、教授から資料を借りてくるよう頼まれて、私は附属病院の図書室に出かけた。
普通の研究論文用の文献なら大学図書館で十分事足りるけれど、教授に頼まれたのは附属病院内で行われる院内研究会の議事録資料。
これは大学図書館には置いてないし、貸出も准教授以上の幹部IDが必要になる。


附属病院はキャンパスと同じ敷地内にある。
とは言え東都大学のキャンパスは都内髄一の広さを誇っていて、一番近い医学部棟から歩いても優に十分はかかる。


外に出て歩き始めた時は曇り空だったのに、途中からどす黒い雲が広がり始め、後もうちょっとというところで雨に降られてしまった。
割と強い雨脚に、私も右腕をひさし代わりに額の上に翳しながら、足元に広がっていく水溜まりも気にせず駆け出す。


病院の職員通用口に着いた時、雨は更に強くなり、ザーッと音を立てて地上に降り注いでいた。
濡れてしまったとは言え、本降りになる前に辿り着いたことにホッとしながら、私はセキュリティを抜けて院内に入った。


病院の図書室は、蔵書や資料が専門的すぎるせいで、それほど利用者は多くない。
カウンターには顔見知りの司書さんが暇そうに座っていて、私の顔を見るとちょっと眠そうな笑顔で挨拶してくれた。
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