エリート外科医の一途な求愛
――けれど。


「ただいまー……」


寝室のベッドに転がっていたら、ちょっと遠慮がちな声が階下のリビングから聞こえてきた。
それを聞いて、私は頭から布団を被る。
ほどなくして、寝室のドアが開く。


「……遅くなってごめん、葉月」


ベッドの上で布団に包まっている私に、ドア口から颯斗が声を掛けてくる。
それを聞いて、私は反射的に身を強張らせた。


「帰りがけ、容体が急変した患者がいてね。連絡も出来ずに、ごめん」


真摯な声を聞いて、私は布団の中で一度大きく息を吐いた。
そして、気を取り直して、勢いよく布団から顔を出した。


「うん。わかってる。大丈夫」


そう言って、ニコッと笑顔を浮かべて見せた。
なのに、颯斗が笑わないから、私の笑顔も引っ込みがつかなくなる。


「キッチン……なんか、すごい豪華だったけど、 今日なんかあったっけ……?」


颯斗はドア枠にもたれた格好で、訝しそうに首を傾げる。


私が勝手に企画した『一ヵ月記念日』には思い当たらないんだろう。
きっと、自分が忘れるだけで、帰れなかったことを申し訳ないと思っているに違いない。


そんな颯斗に、私は慌てて大きく首を横に振った。


「ち、違うの! 何も特別な日じゃないから、心配しないで!」
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