エリート外科医の一途な求愛
「わかってる。わかってるよ。どっちにしても、葉月の東京のマンション放置しとくわけいかない。それに、教授にも会って話さないといけないから、サンクスギビング辺りで休み取って挨拶に行こうと思ってるんだけど」

「休暇申請、早めにしとけよ」

「おい、さくっと流すなよ。問題はここからなんだ、レイ」


組んでいた足を下ろし、再びデスクに向かってしまいそうなレイを、俺は軽く身を乗り出して止めた。
レイは『まだなんかあるのかよ?』とでも言いたげな目を俺に向けてくる。


「葉月のふざけた寝言はここから。あのな。その、明らかに俺に負の印象を抱いてるであろう葉月の父親はな。……剣道柔道空手道の有段者なんだって」


自分を落ち着かせようと、大きく深呼吸してから声を潜めて告げた俺に、レイはきょとんと目を丸くしている。


「ケンドージュードーカラテドー?」


片言で言われると、なんとも軽い印象になるのが残念だ。


「格闘技みたいなもんだ。レイだって知ってるだろ?」


俺が頭を抱え込みながら呟く隣で、レイはクスッと笑った。


「ハヤト、生きてアメリカに戻って来れないかもしれないね」

「マジ、冗談じゃねえんだよ。っつーか、そんなスパルタ親父がいるなんて、聞いてねえぞ……」


グシャグシャと髪を掻き回す俺に、レイは愉快そうに声を上げて笑った。
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