エリート外科医の一途な求愛
強引に傘を持たされ、私も思わずギュッと柄を握り締める。


各務先生は、私が傘をしっかりと持つのを見ると、自分は傘から一歩外に出た。
途端に、大きな雨粒が彼の白衣を濡らし始める。


「えっ。か、各務先生っ?」


私は慌てて一歩各務先生に近付き、さっき彼が私にしてくれたように、手に持たされた傘を差し掛けようとした。けれど各務先生は、私より大きな歩幅で、私から更に一歩距離を置いてしまう。


「貸してやるから。議事録、濡らすなよ」


一言素っ気なくそう言って、各務先生は私にクルッと踵を返した。
そして、私が呼び止めようとするのも聞かず、弾むように走っていってしまう。


「各務先生! 待って!!」


慌ててその後を走って追いかけようとして、踏み出した足が思いっきり水溜まりに嵌ってしまう。
バシャッと水が跳ね上がるのに怯んで、私は足を止めてしまった。


「かが……」


真っすぐ顔を上げて呼び掛けた時、各務先生の白衣の背中は既に遠のいて小さくなっていた。


「あ……」


議事録をしっかり胸に抱え、傘の柄を持つ手に無意識に力を込めながら、私はキュッと唇を噛む。
そして、真っすぐ前を向くと、もう見えない各務先生の背中を追って、私も医局へと急いだ。
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