エリート外科医の一途な求愛
意地悪な脅迫
医局に戻る前に、ロッカー室に駆け込んだ。
医学部棟と附属病院、図書館など、同じキャンパス内で外を歩くことも多いから、私は普段からロッカーにタオルを常備するようにしている。
置いといて良かった、と思いながら、私は白いフワフワのタオルを手に階段を駆け上がり、医局に飛び込んだ。


ドア口から中を見渡した途端。


「やだ、先生! この白衣、水絞れますよ~」


千佳さんの笑い声が聞こえてきて、私はその場でピタッと足を止めた。
声がした方向に顔を向けると、医局内の簡易洗面台で、白衣をまるで雑巾のように絞っている千佳さんの背中が見えた。


ちょっと腰を屈めて作業する彼女が振り返る先。
そこに、びっしょり濡れた髪を鬱陶しそうに掻き上げる各務先生がいる。
千佳さんの笑い声に苦笑しながら、


「だろうな。下までびっしょりだ。気持ち悪」


ネクタイを緩め、言葉通りびっしょりの白いシャツのボタンを外していた。


「先生、タオルタオル! 私の使ってください!」


そんな彼に、美奈ちゃんがビシッと手を挙げてアピールしながら、勢いよくタオルを差し出した。
各務先生は片手で『サンキュ』と受け取っている。
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